FPのためのキャッシュフロー比較ガイド ― 計算結果に差が生じたときの確認ポイント
FP-UNIVで作成したライフプランを比較すると、同じご家族・同じ前提条件であっても、作成時期によってキャッシュフローの計算結果が異なることがあります。
本記事では、顧客へ差の理由を説明するファイナンシャルプランナーのために、制度改正、計算条件、表示方法の観点から確認すべきポイントを整理します。
まず押さえたいこと
計算結果の差は、システムの処理環境ではなく、分析に適用された税制・社会保険・年金・DC/iDeCoの制度条件や、個別設定に対する計算条件の更新によって生じます。
収入、税・社会保険料、支出、投資、資産残高のどこを比較するかによって、差の見え方と説明すべきポイントも変わります。
本記事は、旧バージョンのFP-UNIVと、2026年8月29日時点の新バージョンのFP-UNIVで同じプランを比較する際の実務上の留意点です。
顧客説明の前に:キャッシュフローは何で動くのか
FP-UNIVでは、毎月の収入と給付を計算し、そこから税金、社会保険料、生活費、ローン返済、投資額などを反映して収支を求めます。その結果がキャッシュフロー表の各行、可処分所得、年間収支、貯蓄や資産残高へ順に波及します。
月間収支 = 収入・給付 − 税金・社会保険料 − 生活費等 − 投資額
黒字は設定した割合で貯蓄し、赤字は設定した出金順位に従って口座から補います。
そのため、税金が月1,000円変わるだけでも、可処分所得、年間収支、その後の貯蓄残高に差が積み上がります。年金額やローン返済額の差は、老後の長い期間にわたってキャッシュフロー全体へ影響することがあります。
FPが確認したい主な計算条件の更新
| 項目 | 旧バージョンのFP-UNIV | 新バージョンのFP-UNIV | キャッシュフローへの影響 |
|---|---|---|---|
| 令和7年度所得税改正 | 反映済み | 反映済み | 両バージョンに反映済み |
| 令和8年度所得税改正 | 未反映 | 反映済み | 対象者は新バージョンで税負担が下がり、可処分所得が増える傾向 |
| 雇用保険・介護保険 | 過年度の固定値 | 年度別マスタ | 給与と加入期間に応じて毎月の手取りが変わります |
| 令和8年度の国民年金保険料・年金改定率・在職老齢年金基準 | 反映済み | 反映済み | 両バージョンに反映済み |
| 厚生年金の再評価率・個別年金ロジック | 旧条件を含む | 更新・修正済み | 加入歴や受給設定に該当する場合、老後収入から差が累積 |
| DC・iDeCo改正 | 旧上限・旧加入条件 | 2026年改正に対応 | 預貯金は減っても、老後資産と税効果は増える場合があります |
| キャッシュフロー・資産分析の集計と表示 | 従来表示 | 証券・DC等の内訳と表示修正を追加 | 実残高が同じでも表示定義の違いが生じる場合があります |
1. 令和8年度の所得税改正
令和7年度改正の「所得税の基礎控除」「給与所得控除の最低保障額65万円」「特定親族特別控除」は、旧バージョンのFP-UNIVと新バージョンのFP-UNIVのいずれにも反映済みです。
新バージョンのFP-UNIVでは、その後に成立した令和8年度改正も反映しています。主な内容は次のとおりです。
- 所得税の基礎控除 — 令和8・9年分は、合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、これを超える一定範囲では62万円として計算します。
- 給与所得控除 — 令和8・9年分の最低保障額を74万円として計算します。
- 扶養・配偶者等の所得要件 — 基礎控除等の引上げに合わせて判定額を更新しています。
- 公的年金等の源泉徴収 — 改正後の基礎的控除額と適用時期に対応しています。
対象となる世帯では所得税が少なくなり、可処分所得と年間収支が増える方向に働きます。ただし、所得、家族構成、各種控除によって影響額は異なります。住民税の基礎控除そのものは43万円で据え置いており、所得税の基礎控除額をそのまま住民税へ流用してはいません。
制度の詳細は、国税庁の令和7年度税制改正の案内および令和8年度税制改正Q&Aをご確認ください。
2. 雇用保険・介護保険の年度条件
旧バージョンのFP-UNIVでは、雇用保険の労働者負担率を令和5年度以降も0.6%として扱う条件が含まれます。新バージョンのFP-UNIVでは年度別の料率を参照し、一般の事業について令和7年度は0.55%、令和8年度は0.5%として計算します。
また、協会けんぽの介護保険料率について、旧バージョンのFP-UNIVでは令和6年度の1.60%が最後の固定値となる場合があります。新バージョンのFP-UNIVでは、令和7年度1.59%、令和8年度1.62%を含む年度別の料率を参照します。協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なるため、登録された年度・都道府県別の料率を用います。
雇用保険は新バージョンのほうが負担を小さくする方向、介護保険は年度によって上下します。給与額と40〜64歳の加入期間に応じて、毎月の手取り、税・社会保険料、年間収支へ反映されます。公式の年度値は、厚生労働省の令和8年4月の制度変更、協会けんぽの介護保険料率をご参照ください。
3. 年金見込額と加入判定の更新
令和8年度の国民年金保険料月額17,920円、年金額の改定、在職老齢年金の支給停止基準額65万円は、旧バージョンのFP-UNIVと新バージョンのFP-UNIVのいずれにも反映済みです。
新バージョンのFP-UNIVに含まれる主な差は、厚生年金の過去の標準報酬を現在価値へ置き換える令和7年度再評価率と、個別条件の計算修正です。再評価率は加入時期や生年月日によって異なるため、同じ「令和8年度の年金改定率」を使っていても年金見込額が一致しない場合があります。
そのほか、次のような対象ケース限定の修正を行っています。
- 詳細入力した過去の国民年金納付・免除月数の反映
- 65歳以降の厚生年金加入と第3号被保険者の判定
- 受給中の障害年金・遺族年金を入力から外した場合の扱い
- 付加年金・国民年金基金の年金額、死亡後の支給停止、遺族給付の計上
- DB/DCの死亡一時金を受け取る人の生存判定
これらは全世帯に一律で差を生むものではありません。該当する加入歴、受給設定、死亡シナリオがある場合に限り、年金収入、税・社会保険料、その後の年間収支へ影響します。再評価率は、日本年金機構の年金額の計算に用いる数値に基づいています。
4. DC・iDeCoの制度改正
新バージョンのFP-UNIVでは、2026年4月以降の企業型DCマッチング拠出制限の見直しと、2026年12月以降のDC・iDeCo・国民年金基金の拠出限度額改正を対象年月ごとに判定します。また、60歳以上70歳未満の一定の方を対象とするiDeCoの第5号加入者にも対応しています。
ここではキャッシュフローと資産残高の両方を見る必要があります。掛金を増やした場合、毎月の投資支出が増えて普通預金などの残高は減る一方、DC・iDeCo資産は増え、掛金の所得控除によって税金が減ることがあります。年間収支、預貯金、DC・iDeCoを含む金融資産全体のどれを比較するかで結論が変わります。
制度の詳細は、厚生労働省の2025年の年金制度改正をご確認ください。
5. ローン・有価証券・外貨などの個別修正
次の設定があるプランでは、制度改正以外の計算修正もキャッシュフロー差の原因になります。
- 住宅ローン控除 — 子育て世帯・若者夫婦世帯の上乗せ判定を、入居年末の年齢、家族関係、扶養所得要件を確認できる時点で行うよう修正しました。
- 乗り物の買替ローン — 将来の買替価格だけでなく借入額と返済計画にも物価上昇率を反映します。
- 万が一時の将来購入 — 購入予定を引き継ぐ場合は対応するローンも引き継ぎ、購入を中止する場合はローンだけが発生しないよう整合させました。
- 外貨資産 — カスタム通貨で、個別レート設定より前の期間にも基準レートを適用します。
- 債券 — 市場価格の単位を二重に換算する問題を修正し、クーポンと償還価格の役割を分けました。
特に債券の価格単位や将来の高額ローンは、該当プランでは差が大きく見えることがあります。一方、これらの設定がないプランには影響しません。
FPが見分けたい「計算差」と「表示差」
新バージョンのFP-UNIVでは、キャッシュフローの収支内訳に加え、現金・預金・証券口座・DC/iDeCoの月末残高と資金移動を確認できます。その過程で、次の表示上の問題も修正しています。
- 同じ月の有価証券残高が複数回合算される表示上の二重計上
- グラフと履歴テーブルで月末残高が1か月ずれる問題
- 退職金・満期金・解約返戻金などの一括受取を、通常の収支調整による貯蓄と分けて表示
- 有価証券の売却を、収入ではなく資産間の移動として確認できる内訳表示
これらは、口座の実残高を変える修正と、同じ実残高の見せ方だけを直した修正が混在しています。「キャッシュフロー表の貯蓄行」「貯蓄分析の残高計」「DC・iDeCoを含む金融資産合計」は定義が異なるため、同じ名称に見える数字をそのまま比較しないようご注意ください。
分析結果の再利用について
計算結果の再利用は処理時間を短くするためのもので、金額を変更する機能ではありません。ただし、旧バージョンのFP-UNIVで保存された分析結果と、新バージョンのFP-UNIVで再分析した結果を比べると、異なる計算条件での比較になります。
顧客へ説明する前には、同じ入力内容・同じ基準年月を確認して分析を再実行してください。旧バージョンの保存結果をそのまま比較対象にせず、新バージョンのFP-UNIVで再分析することが重要です。
FPが顧客対応で確認する順番
- 基準年月を揃える — 残高の基準月と分析開始月を確認します。
- 同じ入力データで再分析する — 旧バージョンの保存結果ではなく、新バージョンのFP-UNIVで比較します。
- 最初に差が出る年月を探す — 最終残高だけでなく、差が初めて発生した月・年を確認します。
- 収入、税・社会保険料、支出、投資の順に見る — 最初に差が出た行が、残高差の起点です。
- 比較する残高の範囲を揃える — 預貯金のみか、有価証券やDC/iDeCoを含むかを揃えます。
差の方向は世帯ごとに異なります
税・雇用保険の更新は可処分所得を増やす方向になりやすい一方、DC/iDeCo掛金の増額や将来ローンへの物価反映は、年間収支や普通預金を減らす方向に働きます。新バージョンのFP-UNIVによるキャッシュフローが、一律に有利または不利になるわけではありません。
顧客へのご説明にあたって
旧バージョンのFP-UNIVによる分析結果は、その作成時点の制度・計算条件を反映した参考値です。現在の制度と計算条件に基づくご提案では、新バージョンのFP-UNIVで再分析した結果を基準にしてください。
同じ条件で再分析しても理由の分からない差が残る場合は、対象プランと「最初に差が出る年月」をお知らせください。該当月の収入、税・社会保険料、支出、投資、口座入出金を順に確認します。
※ 本記事は2026年8月29日時点のプログラムと公表資料を基に、シミュレーション差の主な要因を説明したものです。個別の税務・社会保険手続については、税務署、年金事務所、社会保険労務士、税理士等の専門家へご確認ください。
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